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実は謎が多い雛祭りとお彼岸

■「季節行事」の意味と由来を知る・3月編

■太陽を拝む日であったお彼岸

お彼岸のお中日の春分(秋分)の日は、太陽が真東から昇り真西に沈む。

 

  春分の日・秋分の日を中日として7日間のことを彼岸と呼ぶ。今年でいうと3月18日から24日が春の彼岸、9月20日から26日である。この彼岸については次のような説明がなされることが一般的だ。

 

 彼岸という名称は、いわゆる到彼岸のことである。生死の苦しみに沈む「此岸」から、佛の常住する浄土たる「彼岸」に到り、永遠の楽を得ようという意味である。つまり、迷いの世界を離れて悟りの世界に至ろうという佛教の教えが、彼岸の行事を生むもととなったのである。(松野純孝編『佛教行事とその思想』)
 
 たしかに仏教の開祖・お釈迦様はこの世は苦に満ちており、それから脱するには悟りを得るしかないと説かれた。仏教徒と自称する多くの日本人はそれを実践すべく努力すべきなのであるが、それはなにも春分・秋分だからといって行うべきものではない。春夏秋冬常になされなければならないはずだ。

 事実、仏教が伝わった地域で日本以外に彼岸会に相当する儀礼を行っているところはなく、彼岸会がインドから伝わったとするのは無理がある。もともと日本古来の行事で、それがのちに仏教化したと考えるほうがすっきりする。

 では、もとはどんな行事であったのか。

 やはり春分・秋分を中日とした行事だということがポイントだろう。この時期、太陽は真東から昇り、真西に沈む。昼夜の長さもほぼ同じだ。

 古代人は太陽や月の運行を観察して季節の移ろいを知り、農作の時期を定めてきた。そんな彼らにとって春分・秋分は、太陽の季節と夜の季節を区切る重要な日だと思えたことだろう。

神社では「お彼岸」は行わないが、ほぼ同時期に社日という儀礼が行われる。

 

 神社ではこの時期、社日(しゃにち)という儀礼が行われる。これは春分・秋分にもっとも近い戊(つちのえ)の日になされるもので、五穀の豊作を神に願う(秋は感謝する)。これから強くなっていく太陽の力が着実に穀物に伝わることを願う儀礼といえるだろう。

 仏教民俗学者の五来重氏は彼岸の原形は太陽を拝む太陽崇拝ではなかったかとし、「日願」が彼岸に転じたのではないかと推測している。そうだとすると、社日も「日願」の一種と考えることができる(社日そのものは中国から伝わったものであるが)。

 彼岸(日願)の太陽崇拝と仏教が直接的に結びついたものに四天王の西門念仏がある。真西に沈む太陽を拝んで極楽浄土に往生することを願うものだ。

 阿弥陀如来がおられる極楽浄土は西方はるかかなたにあるとされ、この方角に沈む太陽を見て瞑想することは極楽往生するための修行の第一歩だと『観無量寿経』にも説かれている。

 四天王寺はこの修行をするのに最適な場所とされ、境内の西側に立つ石鳥居には「当極楽土 東門中心」と描かれた額がかかっている。四天王寺は極楽浄土の東門だという意味だ。

写真を拡大 六阿弥陀詣で(『江戸名所図会』)

  これに対し江戸では六阿弥陀詣でが行われた。阿弥陀如来像を安置する6つの寺院をめぐるというものだ。下谷広小路の常楽院から亀戸の常光寺へと回るものが有名であったが、『東都歳時記』にはこのほかに四谷から赤坂へと回る山の手六阿弥陀参り、高輪や目黒近辺をめぐる西方六阿弥陀参りをあげている。
 

写真を拡大 船橋の天道念仏(『江戸名所図会』)

  また、千葉県北西部の船橋では旧暦2月16日から18日(おおよそ彼岸の時期に重なる)にかけて天道念仏が行われていた。
 天道とはお天道様すなわち太陽のことで、太陽を象徴する仏である大日如来を本尊とし、念仏(「南無阿弥陀仏」)を唱え、五穀豊穣を願うという彼岸の儀礼てんこ盛りのような行事であった。

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渋谷 申博

しぶや のぶひろ

日本宗教史研究家

1960年東京都生まれ。早稲田大学卒業。
神道・仏教など日本の宗教史に関わる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地・聖地鉄道などのフィールドワークを続けている。
著書は『聖地鉄道めぐり』、『秘境神社めぐり』、『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』、『一生に一度は参拝したい全国の神社』、『全国 天皇家ゆかりの神社・お寺めぐり』(G.B.)、『神社に秘められた日本書紀の謎』(宝島社)、『諸国神社 一宮・二宮・三宮』(山川出版社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 仏教』(日本文芸社)ほか多数。

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